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もずはっく日記(2008年6月)

2008年6月11日

いくつか、私の意図を明確にするために
初回投稿日時: 2008年06月11日16時43分29秒
最終更新日時: 2008年06月11日20時09分19秒
カテゴリ: Mozilla Core 雑談
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いくつかの誤解を解くために、私の考えを明確にしておきます。

ユーザは文句を言ってはいけないのか?

いいえ、かまいません。ユーザが普通に苦情を書く分には私はそれは問題無いと思いますし、また、批判が無いというのはそれはそれで問題だと思っています。

今回の件で私が問題視しているのは、問題の記事が煽った行動の内容と、その効果やタイミングについてです。

海の向こうで、IMEを知らない担当者がIMEを使ってる私たちに助け(テスト)を求めながら今回の仕事をしてくれました。問題の記事はそういった現場の人間が働いている「現場」でその当人の作業が終わってから、組織票を投じようと呼びかけていました。このような注目の集め方をさせてしまうと、bugzillaで炎上し、コメント欄にまでどうでも良いコメントを書き出す人が出てくる可能性があります(過去の経験からするとその可能性は低くない)。つまり、問題の内容は開発現場で、開発者の一員として起こそうとしていることに他なりません。もし、これを飛躍した話だと思われるのであれば、逆にもっと影響を熟慮して欲しいと思います。

bugzillaでコメント欄にコメントを記入すると、それは関係者にバグメールと呼ばれる、メールが送信され、関係者は目を通すことになります。ここで、スパムコメントが続き出すと、関係者はそのバグの内容にそのうち、目を通さなくなる可能性が高くなります。もし、そうなってしまうと、出ているパッチに対してのフィードバックに関係者が気付かなくなる恐れもあります。これは絶対に避けねばなりません。

このような状況は、自分の仕事している机の真横で、既に終わってることを騒がれているような状態と同じことになります。想像してみてください。あなたが担当者ならそれは受けて当然の「批判」ですか? また、今後も日本人が重大に感じるバグと関わりたいと思いますか? 恩を仇で返す行為を私は容認できません。

問題の記事の提案内容は、今後につながるどころか、今回できた新しい開発者間の関係をぶち壊し兼ねない危険なものです。開発はパッチのみで前に進む訳ではありません。その根底には開発者間の良好な関係に基づく連携があるのです。

ユーザの方もOSSではある一線を越えると、開発者として扱われます。これを素晴らしいと感じるか、酷い話だと感じるかは、OSSの開発形態の意味を本当に理解しているか、していないかの差かもしれません。

voteはしちゃいけないの?

いいえ、そんなことはありません。個人で、それぞれの意志で的確にvoteすることは問題ありません。

ただし、voteにはほとんど効果はありません。健全に運用されているのであれば、重要な項目なんでしょうけど、今回のように、その意味を組織票で覆そうとすると、ますます信頼のおけるものではなくなってしまいます。

ですが、担当がいつまでたっても決まらない、担当者は決まっているけど、パッチを出す気配がない、そういった場合に各個人が積極的に票を投じるのは良いことだと思います。むしろ、そうすべきでしょう。

この誤解を与えた原因は完全に私の最初のエントリの構成のまずさにあります。お詫びします。

開発はユーザに責任を押しつける気か?

いいえ、そんなつもりはありません。

私自身がプラグインの仕組みと、Carbon時代のイベントモデルと、Cocoaフレームワーク内でのイベントの関係が分かっていないため、パッチを作成できませんでした。IME関連のバグは全て私が修正していますので、事実上、(コンポーネントが存在しませんが)IME関連コードのオーナーとなってしまっている現在、修正ができなかった責任は私にあります。これは最初から否定する気はありません。

では何故、パッチを出さなかった人間が文句を言うなという主旨の記事を書いたのか、ということですが、それは、問題の記事が開発現場であるbugzillaで行動しろと扇動している、つまり、(本人にその気が無くても)開発コミュニティの一員として発言していると考えてのことです。開発コミュニティ内では実力、実績重視の縦社会です。普段の人間関係にそれはありませんが、何らかの意志決定が必要な場合、これが重要になります。voteの数等の数字は決断できる人の判断材料であって、既に決定したことを覆すような強い力はありません。

つまり、開発コミュニティ内(bugzilla)から既存の決定を覆したい場合、地道に積み重ねた実績の山が必要です。

USは日本を軽く見てるじゃないか

いいえ、そんなことはありません。もちろん、英語圏と比べると流石に「はい」と言わざるを得ない部分はありますが、母国語を優先するというのは、それはそれで自然なことでしょう。ですが、世界の中では日本は非常に重要視されています。

まず、先日も解説したように、このバグはアクセント記号を使うヨーロッパでも問題があります。US国内でもバイリンガルな方等に影響がある可能性は大です。

もし本当に日本が(というか非英語圏が)軽視されているなら、互換性を重視するFx3.0.xで今回のような危険な修正は認められません。このバグが重要だと考えられているからこそ、Fx3.0.1で修正する許可が予め出ている訳です。ちなみに、Mozilla CorporationとMozilla Japanが連携を取りだしてから、重大な国際化バグは仕様を変更したりと、リスクがあるものでなければ、stableでも修正しようという話になりました。Firefox以前に比べれば、格段に状況は良くなっています。

では、何故土壇場でバックアウトという話になったのか、ですが、あのバグはbeta5 (final beta)では修正されていませんでした。逆に言えば、あのパッチが原因で発生していた問題はbeta5では存在しなかった訳です。beta5以降にも大きな修正が大量に入っていますが、それは、危険を冒さなくてはいけない重大な問題だったからです。

リリースのプロセスからいくと、beta5には無かったバグをFx3.0.0に残す訳にはいきません。しかも、そのバグがYoutubeで発生するようなメジャーなものだからです。そのため、バックアウトして、beta5相当のクオリティに一時的に戻す決断が下されています。これは非常に理にかなっています。

また、私見ですが、世界的にFlashでテキストを入力させようというサイトが非常に希であることもこの決断を後押ししているのは間違いないでしょう。もし同じ問題がinput要素やtextarea要素で発生するなら、リリースは確実に止められていたと思います。

we didn't win that gamble, unfortunately.

これは、とある関係者の発言です。この一言が全ての理由を説明してくれていて、非常に印象的でした。

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